昼食を終えた後、レティアとルーシーは森の中を散歩しながら会話を楽しんでいた。そんな中、ルーシーがふと周囲を見回して尋ねた。
「そういえば、レティーの契約獣は?」その質問に、レティアはハッとしたような表情を浮かべた。契約した覚えはないが、ノクスたちは勝手に従ってくれていたし、今は待機しているのだろうと軽く考えていた。
「うぅーん。その辺をうろついていると思うよぉ?」 軽い調子で返事をするレティア。しかし、その答えにルーシーは呆れ顔を見せた。
「はぁ? あんなのを野放しにしていたら……大ごとになっちゃうでしょ! きちんと管理をしなさいよ……。」レティアは管理といわれても困惑してしまう。家につれて帰るわけにもいかないし、村から離れている家でも目立ってしまう。そして、最近仲間になったばかりのシャドウパピーズのことを思い出した。
「ね、ねぇー普通の狼だったら目立たないかなぁ?」
レティアはルーシーの袖を引っ張りながら、少し不安そうに尋ねた。「ん? 狼? 狼は危険よ。大きいし……凶暴でしょ。まあ……ノクスに比べれば……目立たない……かな……? レティー……他にもいるの? その狼。」
ルーシーは顔を引き攣らせながら聞いてきた。「あー……うん。さっき知り合ったの! ノクスにご飯をあげてたらね……匂いに誘われて近づいてきたのぉ。えっとね、シャドウパピーズって名前をつけたんだぁー♪」
レティアはにぱぁと無邪気な笑顔で答えた。「そう……今度は、魔物じゃないだけマシかな……狼なら犬より大きいけど、まあ……大丈夫じゃない? どんな狼なのよ?」
ルーシーは呆れつつも、真剣な表情で尋ねた。「うーん……ノクスよりね、ちいさくてかわいーよ♪ ノクスを見てね……くぅーん、くぅーんって怯えてたのぉ。」
レティアはその場面を思い出し、笑顔で答えた。「ふーん……可愛いなら良いんじゃないのかな? ……いや、あんたの可愛いは……基準がおかしかったわ……はぁ。見てあげるから、呼んでみなさいよ……。」
「おかしくないもんっ。シャドウパピーズー!! おいでぇー!!」
レティアが森に向かって大きな声で呼ぶと、ルーシーは周囲を警戒しながら辺りを見回した。その瞬間、レティアの影から勢いよくシャドウパピーズが次々と飛び出してきた。
「キャァーーー!? ……って、普通の狼じゃないじゃないの!! その特徴的な漆黒の毛並みと鋭い金色の瞳で圧倒的な存在感は、狼の中で最強の種族として知られてる狼じゃないの! 何頭いるのよ……まったく。」
ルーシーは驚きつつ、レティアの背中に隠れながら不平を漏らした。「んー10頭かなぁ……?」
レティアは平然とした表情で答えた。「はぁ……そんな狼は連れて歩けないっての! ノクスよりは……マシだけれど。ムリよ、ムリムリ……。あ、でも……レティーの影から出てきたよね? 心強い護衛よね……。」
ルーシーは怯えつつも、シャドウパピーズを護衛として認識し始めた様子だった。「え? シャドウパピーズを護衛? こんなかわいい子が護衛?」
レティアは不安そうな目でシャドウパピーズを見つめた。「やっぱ、あんた……基準がおかしいわ……この辺なら最強クラスの種族よ?」
ルーシーは呆れながら、淡々と伝えた。「そうなんだぁ……でも、頼りないなぁ……。」
レティアの言葉に、シャドウパピーズは落ち込んだ様子を見せた。「あ、落ち込んでる? へー……結構、可愛い……かも?」
ルーシーが撫でようとすると、シャドウパピーズは低く「ガルルゥゥゥ」と唸り声をあげた。「……やっぱ、可愛くない! ま、護衛としては十分ね。野営する時に心強いわね……変な冒険者や盗賊も逃げていくわよ、これ。」
ルーシーは少し吹っ切れた様子でそう言い、ようやく安心したように小さく息をついた。「それより、わたしの影から出てきたよね!? なにその能力!? カッコいー♪ ノクスは出来ないのかな?」
レティアが興奮気味に話しながら、再び影に意識を向けた。好奇心を抑えきれずに、自分の影に向かって呼びかけてみる。 「ノクスー? いますかー?」まさかと思いながらも、影からノクスたちが勢いよく飛び出してきた。その瞬間、ルーシーは目を見開き、足をガクガクと震わせながら叫んだ。
「わ、わわわぁ……ちょ、ちょっと……なに!? れ、レティー!! 怖すぎだって! 完全に狼に囲まれてるじゃないの! こんな状況……終わってるわよ……普通なら!」しかし、レティアは気にする様子もなく無邪気に笑顔を浮かべながら答える。
「だってー気になっちゃったんだもーん♪ だって、わたしの影から出てきたんだよぉ? カッコいい♪」 レティアはノクスを撫でながら、その力を誇るように話した。「そ、そうなんだ……影から出入りするって便利ね。でも、聞いたこと……あぁ、あるね、あるある。ノクスや闇属性の魔物は影移動するって。背後から現れて不意打ちをしてきて、ほぼ逃げられないって聞いたなぁ……。」
ルーシーは驚きを隠しきれず、その能力の特性について思い出すように語った。 「それ、スゴイねぇ♪」ノクスたちを見つめながら、ルーシーは複雑な感情を抱いているようだった。一方でレティアは、影能力の可能性に目を輝かせ、さらに興味を深めている様子だった。